前回、CSR(企業の社会的責任)は、法の遵守に加え、法の枠組みを超えるプラスアルファを目指し、企業が社会に受け入れられるような正しい活動をすることであるとお話しました。ですので、労働CSRは、労働法規を確実に遵守することに加え、プラスアルファを目指すことになります。
では、なぜ、労働分野におけるCSRが重要なのでしょうか?これについては、少し古くなりますが、2008年に厚生労働省が発表した「労働に関するCSR研究会報告書」に考えるヒントがあります。その概要を紹介すると、次のようになります。
○ 従業員の働き方に十分な配慮を払い、かけがえのない個性や能力を生かせるようにしていくことは、企業にとって本来的な責務である。そして、従業員等に責任ある行動を積極的に取っている企業は、市場において投資家、消費者、求職者等から高い評価を受けることにつながる。
○ 労働分野におけるCSRの取り組みは、従業員の企業に対する満足度・信頼度を高めることにより、労働モラルを引き上げ、優秀な従業員の定着や就業意欲の向上に資するものである。また、従業員の創意工夫・能力発揮を促し、新製品、新サービスの開発、技術革新等による労働生産性の向上につながるといった効果が期待できる。
○ CSRに積極に的に取り組むことは、社会問題の解決だけでなく、企業経営の視点でも有益である。具体的には、①企業ブランド構築による優秀な人材の確保やシェアの維持、拡大につながること、②不正行為など社会的非難を受ける事態の防止に資することから、リスク管理に有効であること、③ SRI(Socially Responsible Investment、社会的責任投資)等を通じて資金調達の強化になること、等のメリットが考えられる。
*SRI(社会的責任投資)とは、投資基準として、財務的側面だけでなく、CSRの実施状況も考慮して投資対象を選ぶこと。
いかがでしょうか?労働CSRへの取組は、従業員のためになり、それが企業の発展に、そして、市場における評価にもつながっていく重要なものです。
上村俊一(非常勤理事)
1981年、旧労働省に入省。海外労働情報室長、中央労働災害防止協会国際センター所長、ILO駐日事務所次長等の国際関係業務に従事。ILO総会に5回出席。2018年、社会保険労務士事務所S&U労働コンサルティング代表